NPO法人 ToBiRa / 古民家 Re-Design プロジェクト

教育設計について
この3日間を、どんな考え方で組み立てているか

教育関係者・支援者・連携先の皆さまへ。私たちがこの企画をどう設計し、何をどのように測っているかをご説明します。

古民家Re-Designプロジェクト
このページは、教育関係者・支援者の方向けの詳細資料です

企画の様子や参加者の変化をご覧になりたい方は、第1回の記録のほうが読みやすいと思います。

3行でいうと

  • あえて不便にすることで、主体性・創造性・満足感を引き出す(不便益)
  • 体験を「ただの体験」で終わらせないため、問答法で言語化させ、診断で可視化する
  • 第1回では設計どおりの変化が確認できた一方、自己肯定感の核は3日間では動かないという限界も見えた

01教育目標

自らの内面を開発し、生き方・人生軸・価値観を変容させる

現代的・経済的な豊かさと対極にある、田舎の自然での暮らしを通して。到達したい価値観は ──

効率は悪くなるけれど、人間にとっては豊かになる

という視点、すなわち心の豊かさです。

いま子どもたちは、便利な時代の恩恵を受けています。その一方で、「困難」や「頑張る」を身につけないまま大人になる可能性があります。社会に出たからこそ分かる、この「生きる力」の必要性。学校教育だけでは補いきれない部分を、私たちが担いたいと考えています。

もうひとつの問題意識が「体験格差」です。体験の量だけの話ではありません。「価値ある経験」「体験を経験にするための価値づけ」がなされず、ただの体験で終わってしまうことのほうが深刻です。

02中核概念 ── 不便益

不便益とは、あえて手間や制限(=不便)を残したり追加したりすることで、人の主体性や創造性、満足感を高めるという考え方です。本プロジェクトは、全体の教育設計がこの視点で組み立てられています。

不便のつくり方

手法 内容
操作数を多くする 頭やスキルを多く使わせる
操作量を増やす 身体への負荷や複数の工程を要求する
情報量を減らす 必要な情報をあえて削る
無秩序にする 雑然とさせ、無作為の要素を入れる
アナログにする 途中を省略させない
劣化させる 質や五感の一部をあえて不便にする
限定する 時間や場所に制約を与える
ひと手間を加える 省ける工程をあえて残す
時間をかける 即座に結果が出ないようにする

不便から得られる8つの益

主体性が持てる
工夫ができる
発見できる
対象が理解できる
私だけ感がある
安心できる・信頼できる
能力低下を防ぐ
上達できる

03環境デザイン ── 活動と益の対応

3日間の各活動は、どの「不便」を用いて、どの「益」を引き出すかを設計したうえで配置しています。

活動 用いる不便 引き出す益
竹を切って寝床をつくる 操作量/ひと手間/時間をかける 工夫ができる・上達できる・私だけ感
火を起こして調理する アナログにする/操作数 主体性・対象が理解できる・上達できる
提案書づくり(作り方は教えない) 情報量を減らす/無秩序にする 主体性・工夫・発見
スマートフォンを預かる 限定する/情報量を減らす 発見できる・能力低下を防ぐ
3時半起床・海岸まで歩く 操作量/限定する 発見できる・私だけ感
何もしない自由時間 情報量を減らす/時間をかける 主体性・発見できる
活動の様子
作り方は示さない。省ける工程を、あえて残す。
設計上の原則:作り方を示さない。省ける工程をあえて残す。教育活動中も「無秩序性」や「操作量・操作数」を増やす意図的な仕掛けを行う。

04「愛する心」が生まれる過程

自分から動かなければ何も始まらない環境では、必ず「ひとりでは無理だ」という場面が訪れます。そこで仲間の存在が意味を持ちます。私たちは、この過程を次の4段階として設計しています。

STEP 1
課題への直面自分から動き出す/不便・困難(壁)に衝突する
STEP 2
リアルな体験と協力顔を突き合わせて仲間と協力する/時間をかけ、考え工夫し「ひと手間」を加える/教えてくれた大人へ感謝する
STEP 3
「愛する心」の醸成仲間との信頼(人間愛)/自分が作ったものへの愛着/「写真を撮り振り返る」ことで体験を実感化
STEP 4
未来への還元日々の意味と喜び(生きる力の源泉)/社会性と集団生活への適応力
スマホやAIの発達で、人を簡単に信用することが難しくなりました。
顔の見えない交流が増えた時代に、
顔を突き合わせ、同じ壁を乗り越える経験が「人間愛」を生み出します。

第1回では、仲間と楽しそうに過ごす姿、教えてくれた大人に感謝する姿が多くの場面で見られました。最終日には、子どもたちのほうから「掃除がしたい」「感謝の手紙を書きたい」という声が上がっています。また「私の3日間」という活動では、全員が自分でつくったものを写真におさめて振り返っていました。自分が手をかけたものに、愛着が生まれていたのです。

05ものの見方の変化 ── 認知フレームのシフト

会場は成田空港の近くで、朝から晩まで飛行機の爆音が響きます。隣の人との会話も聞き取れないほどです。ところが夜の振り返りの時間に、参加者からこんな発言がありました。

「普段は気にならないのに、
こういう落ち着ける空間だからこそ、とても気になる」

背景として処理されていた環境音が、状況と環境が変わることで前景化した ── 自然という環境の中では、自分の中にある反応閾値そのものが変化することを体感した瞬間でした。

食事も同様です。3日間、すべて自分たちで調理することを徹底しました。普段は保護者がつくってくれる料理を、自分の手でつくる。そのことで、おいしさも見え方も違っていたはずです。実際、普段よりも感謝している姿、おいしさに笑顔があふれる姿がありました。

ここで獲得されるのはメタ認知です。「状況・環境が変われば、ものの見方は変わる」── これを知っているだけで、世の中の見え方と考え方が変わります。人生を通じて効く知恵です。
仲間との時間

06自分と向き合う ── 焚火の効果

毎晩、火を囲んで自分自身と向き合う時間を設けました。日中は思いきりはしゃいでいた子どもたちが、火の前では心を落ち着け、自分と対話する姿を見せます。普段なら面と向かって話すのが恥ずかしい内容も、火と向き合うことで素直に、自分の言葉で話してくれました。

これは偶然ではなく、火には次の効果があることが分かっています。

1
「1/fゆらぎ」による深いリラックス

炎の揺らぎや木がはぜる音には、自然界特有の「1/fゆらぎ」が含まれます。視覚・聴覚からこの刺激を受けると脳波にα波が現れ、副交感神経が優位になり、緊張がやわらぎます。

2
五感刺激とマインドフルネス

炎のゆらめき、はぜる音、暖かさ、薪の香り ── 五感すべてが心地よく刺激されます。意識がそこへ向かうことで雑念が消え、「今、この瞬間」に集中する瞑想的な状態が引き出されます。

3
心を開かせる自己開示効果

暗闇の中で火の明かりを共有すると、人は互いへのガードが下がります。さらに「正面から目を見る必要がない」という適度な視線の逃げ場があるため、普段は言えない本音を打ち明けやすくなります。

4
原始的な安心感と「生きている感覚」

人類は太古から火で暖を取り、暗闇や獣から身を守り、食事をつくって生き延びてきました。火の熱と光は本能に直接届く安全の象徴であり、デジタルに囲まれた現代人が「生の実感」を取り戻す体験になります。

電子的なものではなく、人間が根源的に大切にしてきた火と触れ合うことが、人間の内側を引き出してくれます。

07手法 ── 問答法とジョハリの窓

ソクラテスの問答法(産婆法)

私たちは、答えを与えません。『なぜ?』を繰り返すことで、その人の心の内に潜むもやもやを、言語によって表出・確定させていきます。無知の知の自覚を促し、自分自身の不完全性を認識させることが狙いです。

実際の問いかけの例:「なんで焚火って心が落ち着くんだと思う?」「なんで忙しい大人がこんなことしていると思う?」「人間の幸せってなんだと思う?」

ソクラテスは書記文化を批判しました。文字を読むだけでは、人は知識を頭に入れなくなり、考える習慣を止め、書かれたものをそのまま受け取って解釈しなくなる ── だからこそ、リアルな対人コミュニケーション、動作、表情、韻律、リズム、熱、相手に合わせた言葉が大切だと考えます。

ジョハリの窓 ── 認識の変容

自分は知っているが他人は気づいていない「秘密の窓」、自分は気づいていないが他人は知っている「盲点の窓」。仲間との3日間は、この窓の配置を組み替える時間です。他者を通してしか見えない自分を知ることが、自己認識の変容につながります。

3日間の記録

08効果測定の設計

「ただの体験で終わらせない」ために、内面の変化を可視化する診断を独自に開発しました。スポーツ心理検査DIPCA.3(心理的競技能力診断検査)の構造を土台に、本企画の教育目標へ合わせて再設計したものです。

構成

6領域 × 3問 = 全18問、5件法、各領域15点満点。逆転項目を1問含みます。DIPCA.3が「競技場面」に土俵を絞ることで回答のブレを防ぐのと同じ考え方から、全員が「ふだんの自分」という共通の枠で回答します。

測定する6領域は、①不便益マインド ②主体性・自己決定 ③自己受容・自己肯定 ④他者理解・寛容 ⑤畏敬・心の豊かさ ⑥自己省察 です。

実施フロー

初日に診断 → その場で結果を提示 → メンターと対話して強みと「のびしろ」を特定 → 本人が「3日間で伸ばしたいこと」を自分の言葉で決定 → それを握って3日間を過ごす → 最終日に再診断。診断は評価のためではなく、自分と向き合うための道具として組み込まれています。

分析フレーム ── 18問の4分類

第1回の結果を分析する過程で、18の問いが「3日間の体験がどう作用するか」によって4つに分類できることが分かりました。分け方の基準は、その問いに対して体験が「材料」を与えるのか、「試験」を課すのかです。

分類 問数 性質 予測される動き
Ⅰ 体験獲得型 5問 やってみて初めて意味が分かる問い。3日間が「材料」を与える 上昇する
Ⅱ 行動習得型 6問 意識すればできる行動。練習の場がある 上昇する
Ⅲ 基準較正型 4問 やってみて初めて難しさが分かる能力。3日間が「試験」を課す 下降する(=成長)
Ⅳ 自己評価基盤型 3問 人格の核(自己肯定感)。3日間では届きにくい 動きにくい
この枠組みは予測として機能しました。第1回の実データで、Ⅰ(+0.80)> Ⅱ(+0.46)> Ⅳ(+0.25)> Ⅲ(−0.44)と、予測どおりの順序になり、マイナスになったのはⅢのみでした。合計点だけを見ると、誠実に向き合った参加者ほど数値が伸びにくい構造があることも分かっています。

09第1回の結果

2026年8月、第1回を実施しました。体験獲得型(Ⅰ)は参加者全員が上昇し、下降した参加者はいませんでした。一方で「考えが違う人も受け入れられる」という自己評価は下がっています。初日に自分を高く見積もっていた参加者ほど大きく下げるという明確な逆相関が確認され、これは真剣に回答した証拠と考えています。

10今後の課題

第1回のデータから、次の3点を次回設計に反映します。

①合意形成の場面に、受け止め方を教える機会を設ける。「意見がぶつかったら、まず相手の理由を聞いてみよう」という一言があるだけで、他者理解の質は変わる可能性があります。

②下がった数値を、そのまま本人に返さない。「初日は自信があったんだね。3日間やってみて、どうだった?」という問いかけに変えることで、下降は最良の教材になります。

③自己肯定感の核は、3日間では動かない。「自分にいいところがある」という問いは、第1回では参加者全員が初日と同じ回答でした。ここを動かすには継続的な関わりが必要であり、単発の企画の限界として認識しています。

この設計を、より多くの子どもたちへ

ここまで考えて組み立てた3日間を、まだ数人にしか届けられていません。
回数を増やすにも、参加費を抑えるにも、運営の基盤が要ります。
認定NPO法人の認定に必要なのは、金額ではなく「寄付してくださった人数」です。

3,000円 × 155人

おひとりの3,000円が、そのまま1人分として数えられます。

3,000円で応援する
活動を見る(Instagram)

本ページは、古民家 Re-Design プロジェクトの教育設計をまとめたものです。効果測定に用いた診断は、DIPCA.3(徳永幹雄ほか)の構造を参考に独自作成した18項目であり、統計的な妥当性検証を経たものではありません。第1回の参加者は4名のため、結果の一般化はできません。
教育機関・研究機関の皆さまとの連携も歓迎しております。お問い合わせはInstagramのDM、または当団体までご連絡ください。
NPO法人 ToBiRa 2026年8月

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