古民家 Re-Design プロジェクト
「手間は、面白くない」
そう答えた少年が、
3日後「とても面白い」と答えた。
千葉の古民家で過ごした2泊3日。子どもたちの内面に何が起きたのか、
私たちは初日と最終日、同じ18の問いで測ってみました。
スマホを手放し、火を起こし、自分の手で暮らしをつくった3日間。
013日間で、何が変わったのか
スマートフォンは持たせません。竹を切って寝床をつくり、火を起こして食事をつくる。2日目の朝は3時半に起きて、海岸で日の出を見ました。夜は焚火を囲んで、うまく言葉にならないことを言葉にしようとしました。
手間を増やす。情報を減らす。アナログにする。時間をかける ── 便利さを取り除くと、人は自分で考え、工夫し、感情が動きます。それを「不便益(ふべんえき)」と呼びます。楽ができる時代だからこそ、手に入れにくくなったものです。



その前後で、6つの力を測った結果がこれです。
青がはじめ、ピンクが3日後。主体性・自己省察・畏敬が大きく広がりました。これは、この企画がいちばん力を入れた場面 ── 作り方を教えない提案づくり、焚火の対話、日の出 ── と正確に一致しています。
02わかったこと、3つ
4人全員が上昇しました。下がった子はひとりもいません。やってみて初めて意味が分かる種類の問い ── 言葉にする力、手間の面白さ、余白の意味 ── のすべてで、です。
モヤモヤした気持ちを言葉にして整理する。この問いが最大の伸びでした。焚火を囲んで「なぜ?」を重ねた時間が、そのまま表れています。
考えが自分と違う人も受け入れられる。この問いだけが下がりました。実はこれが、3日間でいちばん大事なことを教えてくれます。

03「下がった」ことの、本当の意味
初日、子どもたちの多くは「自分は違う考えの人も受け入れられる」に4〜5点をつけていました。まだ、本物の話し合いも、本物の不便も経験していなかったからです。
3日間、彼らは同じ班で提案をまとめ、食事をつくり、ぶつかりました。そして最終日、その自己評価を下げたのです。
自分を見る目が、育ったのです。
証拠があります。初日に自分を高く見積もっていた子ほど、大きく下げていました。いい加減に答えていたら、こんなにきれいな関係は絶対に出ません。最終日、4人が自分を守らずに正直に答えた ── その何よりの証拠です。
04でも、本当に伸びなかったのか
解散の日、4人はすっかり打ち解けていました。名前を呼び合い、笑い合い、また会おうと言っていました。関係の質は、明らかに上がっていた。それなのに数字は動かない。
そこで「他者理解」の3つの問いを、分けてみました。
「最後まで聞く」
「相手の理由を想像する」
「受け入れられる」
「±0」の正体は、増えた分と厳しくなった分が、ちょうど打ち消し合っていたことでした。聞く力も、想像する力も、確かに増えていたのです。
他人の中にも同じ複雑さがあると気づく。
だから「受け入れられる」と軽く言えなくなる。
仲良くなったことと、自己評価が下がったこと。この2つは矛盾しません。同じひとつの出来事の、表と裏でした。

054人の、それぞれの3日間
同じ企画に参加しても、必要としていたものは4人とも違いました。タップすると、一人ひとりの記録が開きます。
※ プライバシー保護のため、匿名で掲載しています。
Aくん6つの力すべてが伸びた読む
18問中11問に「どちらともいえない」と答えた、自分を大きく見せない少年。
ピンクの形が外側に広がっているところが、伸びた力です。
初日、Aくんは18の問いのうち11問に「どちらともいえない」と答えました。自分を大きく見せない、慎重な少年です。
3日後、6つの力すべてが伸びていました。4人の中で、Aくんだけです。下がったものはひとつもありませんでした。
いちばん変わったのは「だれかに言われないと動き出せない」という問い。作り方を教えない提案づくり、自分たちで考える食事の準備 ── 誰の指示も待たずに動いた3日間が、そのまま表れています。
最後に本人が書いた言葉は「前よりコミュニケーションをもっととれるようになった」。自分を知ろうとした3日間が、自然と人に向かって開いていきました。
Bくんたったひとつの問いが、最低から最高へ読む
感じる力は満点。でも、それを言葉にできなかった少年。
ピンクの形が外側に広がっているところが、伸びた力です。
初日から、自然に心が動くこと、便利さでは測れない大切さがあること ── 感じる力は、すでに満点でした。
ただ、たったひとつだけ最低点をつけた問いがあります。「モヤモヤした気持ちを、言葉にして整理しようとする」。感じているのに、言葉にならない。それが出発点でした。
3日間、焚火の前で「なんでそう思う?」と何度も問いかけられました。そして最終日、その一問だけが最低点から最高点へ変わっていたのです。
本人が残した気づきは、たった5文字。「人の大切さ」。言葉にできなかった少年が、自分の3日間を5文字で言い切りました。
Cくん自分で決めた課題が、最大の成果に読む
「自分で考えるのが上手くできない」と、自分の弱さを自分の言葉で書いた少年。
ピンクの形が外側に広がっているところが、伸びた力です。
初日、Cくんが自分で書いた目標は「自分で考えるのが上手くできないから、自分で考えて行動する」。自分の弱さを、自分の言葉で言い切っています。
3日後、その「自分で決める力」は4人・6つの力すべてを通じて、最も大きく伸びていました。自分で決めた課題が、そのまま最大の成果になったのです。
もうひとつ大切なことがあります。「手間を楽しむ力」の自己評価は、逆に下がりました。初日、Cくんはここに満点をつけていました。まだ本物の不便を経験する前に、です。竹を切り、火を起こし、思うようにいかない時間を過ごして、正直に下げた ── これは後退ではなく、本当の難しさが分かったということです。
18の問いのうち13問で答えを変えていました(他の3人は6〜8問)。4人の中で、最も深く自分を見つめ直した3日間でした。
Dくん2日間で、いちばん大きく変わった読む
すでに動きだしていた輪に、あとから入っていくことになった少年。
ピンクの形が外側に広がっているところが、伸びた力です。
Dくんは2日間の参加でした。すでに動きだしていた輪に、あとから入っていくことになります。いちばん難しい立場です。
1回目の診断では、18問中17問が最高点か最低点。迷いのない少年です。自分を認める力も、見つめる力も、すでに満点でした。
その彼が、たったひとつ最低点をつけた問いがあります。「手間がかかることでも、やってみると面白いと感じることがある」。手間は、面白くない。それが最初の答えでした。
最終日、そこが最低点から最高点へ。4人・18問すべてを通じて、いちばん大きな変化です。しかもそれが、2日間で起きました。
目標は「みんなと協力して。頑張る。」。あとから輪に入る自分に、いちばん必要なことを正確に選んでいました。
06数字にならなかったこと
ここまで数字の話をしてきました。でも正直に言えば、私たちがいちばん心を動かされたのは、測っていない場面でした。

帰る準備をしていたとき、誰が指示したわけでもないのに、子どもたちのほうから言い出しました。
「掃除がしたい」「お世話になった人に、手紙を書きたい」。
3日間、自分たちで火を起こし、自分たちで食事をつくりました。教えてくれた大人がいて、場所を貸してくれた人がいた。その当たり前に、自分で気づいたのだと思います。診断の18問には、この変化を測る問いはひとつもありません。

会場は成田空港の近くで、朝から晩まで飛行機の爆音が響きます。最初は誰も気にしていませんでした。ところが夜、火を囲んで振り返りをしていたとき、ひとりがこう言ったのです。「普段は気にならないのに、こういう落ち着いた場所だと、すごく気になる」。
音は変わっていません。変わったのは、その子の感じ方のほうでした。環境が変われば、ものの見え方が変わる ── それを頭ではなく、身体で知った瞬間でした。この感覚は、これから先どんな場面でも効いてきます。

毎晩、焚火を囲んで自分と向き合う時間をつくりました。日中は思いきりはしゃいでいた子どもたちが、火の前に座ると静かになります。そして、普段なら恥ずかしくて言えないようなことを、自分の言葉で、一生懸命に話してくれました。
炎のゆらぎには、人をリラックスさせるリズムがあることが分かっています。正面から目を合わせなくていい ── その距離感が、本音を引き出します。人類が大昔から火を囲んできた理由が、少しだけ分かった気がしました。
自分の手でつくったものに愛着を持ち、
誰かに感謝したくなる。
この3日間で起きていたのは、つきつめればこういうことでした。数字はその一部を映しているにすぎません。でも、映った部分と、映らなかった部分は、まったく同じ方向を向いていました。






07なぜ、こんなことをするのか
いまの子どもたちは、便利な時代の恩恵を受けています。その一方で、「困難」や「頑張る」を身につけないまま大人になってしまう可能性がある ── 社会に出たからこそ、その「生きる力」の大切さが分かります。
そしてもうひとつ。体験の格差以上に深刻なのは、体験を”経験”に変えられないことです。楽しかっただけで終われば、それはただの思い出になります。
だから私たちは、初日に自分を測り、メンターと一緒に「3日間で伸ばしたいこと」を自分の言葉で決めてもらいました。診断はテストではなく、自分と向き合うための道具です。
そしてもうひとつ。自分から動かなければ何も始まらない環境では、必ず「ひとりでは無理だ」という場面が訪れます。そのとき支えてくれるのが仲間です。顔を突き合わせて、同じ壁を一緒に越える。スマホの向こうでは決して手に入らないこの経験が、人を信じる力を育てます。
この3日間で、ひとりの少年は「手間って面白いかもしれない」と思うようになりました。ひとりは、感じていたことを初めて言葉にできました。ひとりは、自分で決めて動く力を手に入れました。ひとりは、人を受け入れる難しさを知りました。
そのすべてが、これからの人生の、どこかで効いてきます。
▶ この企画をどんな考え方で設計しているか、詳しくは 教育設計のページ でご覧いただけます。
08保護者の方から届いた声
第1回を終えたあと、参加された4名の保護者の方それぞれと、オンラインで振り返りの時間をいただきました。語られた言葉を、ご本人の許可をいただいてご紹介します。
※ プライバシー保護のため、A様〜D様と表記しています。
この3日間が一番です。
── 保護者A様
VOICE 01 保護者A様「日にちじゃないんですね」
ずっとサポートしてもらったり、いろいろやってきたけど、こんなに変わったのは初めてです。
日にちじゃないですね。関わる人と、関わる環境で、本当にこんなに変わるんだな、と。
保護者A様
こんなに成長するんだって思えたとき、ちょっと未来が、希望が持てたっていうか。
いろいろ気づける子なんだな、こういうことを思ってるんだな、と知れた。
親としても、知るきっかけをここで学べたのが、すごく嬉しいです。
保護者A様
夜、私が寝たあとに、自分でお米を研いで、ご飯を炊いて食べてるんです。
今までやったことがなかったので。
保護者A様
自分たちで火を起こし、自分たちで食事をつくった3日間。その手ざわりが、家に帰ってからも残っていました。つくったスマホスタンドは、いまも家に飾られているそうです。
VOICE 02 保護者B様「閉ざされていた扉が、開いたのかな」
やると自分で言ったことは、必ず最後までやるようになりました。
疲れたとか、忘れちゃったとか、そういう言い訳がなくなったのかな、と。
保護者B様
帰り道、友だちが「一緒に帰ろう」と声をかけてくれたそうです。そして別れ際、その子のほうから「バイバイ、またね」と言った。いつもは話しかけられてばかりで「うん」と答えるだけだったので、驚きました ── そうお話しくださいました。
まず否定から入る子なんです。「やだやだ」って。
でも前よりも、人の意見を捉える力がちょっとついたのかな、と。
少し、閉ざされていた扉が開いたのかなって。
保護者B様
VOICE 03 保護者C様「炙るから、バーナーを買ってほしい」
持ち帰った竹のランプについて、こんな相談をいただきました。竹は水分が多いため、本来は炙って仕上げると艶が出ます。それを自分で調べて、道具をねだったそうです。
家ではあまり自分から「これこれこうだったんだよ」とは言わないんです。
聞くと答えてくれる、という感じで。
でも今日、3日間の様子を教えていただけて、すごく嬉しかったです。
保護者C様
大きな弓矢を持ち帰ったお子さんもいました。「何に使うんだ」と言われながら。持って帰れとは、一言も言っていません。自分でつくったものだから、どうしても持ち帰りたかったのです。
VOICE 04 保護者D様そして、こんな声も
すべての方が「劇的に変わった」とおっしゃったわけではありません。ある保護者の方は、こう話してくださいました。
正直、大きな変化はなかったです。
ただ、迎えに行ったときに「意外と良かった」と言っていて。
「意外とって何よ」という感じだったんですけど、充実してたのかな、と。
保護者D様
竹がすごく気に入ったみたいで、ずっと竹の話をしていました。写真も、竹をずっと見ていて。
もし楽しくなかったら、ずっと文句を言っていると思うんです。
それがなかったので、楽しかったんだな、と。
保護者D様
私たちは、この言葉こそ大切にしたいと思っています。3日間ですべてが変わるわけではありません。それでも、竹の話をずっとしていた。写真を何度も見ていた。文句を言わなかった。── その小さな事実の積み重ねが、いつか意味を持つときが来ると信じています。
VALUES私たちが、大切にしていること
4名の方からいただいた言葉は、私たちが何を大切にしているかを、私たち自身より正確に言い表してくれていました。
最終日、竹で炊いたご飯の焦げを、ひとりだけ最後まで取り続けていた子がいました。他の子は「もういい」と切り上げて、次の活動に移っていくなかで。
私たちは声をかけませんでした。時間には余裕を持たせてあります。自分が納得するまでやりきる ── その時間を奪わないためです。結局その子は、一粒残らず食べきりました。
「もう時間だから終わりにしなさい」と急かされることが多い人生を送ってきたので。
それをこの子のいいところだと思って、ただ待って見ていてくれた。
みんなと同じにと思わずにいてくれたことに、胸がいっぱいになりました。
保護者A様
毎晩、焚火を囲む時間をつくります。日中はにぎやかだった子どもたちが、火の前では静かになり、自分の言葉で話しはじめます。
私たちがするのは「なぜそう思う?」と聞き返すことだけです。答えは教えません。うまく言えないことを言おうとする時間そのものが、その子の力になっていくからです。
学校という枠に収まらなかっただけで、環境が変われば人はまるで違います。竹林に一歩出れば誰よりも頼られる子がいる。静かな場所でこそ、自分の言葉が出てくる子がいる。
合った環境だったら必ず伸びる子なので、
その環境を見つけてあげられないかと、日々考えているんです。
保護者B様
その環境のひとつに、私たちがなれたらと思っています。
学校であれば、卒業すればそこで関わりは終わります。私たちはNPOだからこそ、その先も続けられます。
今回も、参加された4名すべての保護者の方と振り返りの時間をいただきました。ご相談にも、これから伴走していきます。私たちが見ているのは、目の前のことではなく、10年後・20年後のその子の姿です。
子どもは、関わる人と環境で変わります。
開催の回数を、増やしたいのです
この3日間を届けられたのは、まだ数人の子どもたちだけです。
回数を増やすにも、参加費を抑えるにも、運営の基盤が要ります。
認定NPO法人の認定に必要なのは、金額ではなく「寄付してくださった人数」です。
3,000円 × 155人
ひとりの3,000円が、そのまま1人分として数えられます。
大口の寄付より、あなたの3,000円が力になります。
3,000円で応援する
プロジェクトの詳細を見る
認定NPO法人になると、いただいた寄付は税額控除の対象になり、
より多くの子どもたちに、この3日間を届けられるようになります。
【この診断について】スポーツ心理検査DIPCA.3の構造を土台に、本企画の教育目標に合わせて独自に作成した18項目(6領域×3問、各15点満点)です。初日に結果を見て自分で目標を決める設計のため、純粋な効果測定ではなく「本人の成長実感」を測るものとして位置づけています。参加者4名のため統計的な一般化はできません。1領域3問のため、±1〜2点は誤差の範囲です。
【個人情報について】参加者が特定されないよう、すべて匿名(Aくん〜Dくん)で記載しています。
NPO法人 ToBiRa 古民家 Re-Design プロジェクト 2026年8月